女優・吉永小百合(66)が主演する新作映画「北のカナリアたち」(湊かなえ原案、阪本順治監督)の撮影がこのほど、日本最北端の島、北海道・礼文島で初公開された。島は深雪に覆われ、気温は氷点下8度、強風時の体感温度はマイナス30度。元教師役の吉永は、共演する宮崎あおい(26)、森山未來(27)ら6人の“教え子”とともに女優人生でも経験したことのない厳しい自然の中、極限状態での撮影が続いている。東映創立60周年作として今秋公開予定。
撮影現場で突然、吉永の大きな声がした。
「誰か来て! 早く!(森山未來の)手が凍傷みたいになってる!」
さらに寒冷地での撮影経験が豊富な木村大作氏に向かって「大作さん! こんなときどうしたらいいの!」。吉永の手も寒さで赤くなっていたが若い共演者の異変に気づくと放っておけなかった。「すぐぬるま湯持ってこい!」。スタッフに木村氏の怒号が響き、しばし騒然。吹雪時の体感温度は、マイナス30度まで下がる酷寒の厳しさを物語る一幕だった。
この冬一番の冷え込みといわれた日の撮影。離島にある分校の元教師(吉永)と複雑な事情を抱えた教え子(森山)が久しぶりに再会し、積年の思いを打ち明けるクライマックスシーンでのことだった。激しくふぶく悪天候にもかかわらず計4台のカメラを使い、ワンカット約3分の長回しで撮る間に起こった非常事態。吉永の“早期発見”で森山の左手は何とか凍傷を免れ、しもやけで治まった。
「1月の間は撮影を離れても決して『寒い!』という言葉は使うまい」と誓って現地入りした吉永。これまでの女優人生では、メーンの相手役はほとんど男性1人だったが、今回は主演クラスの若手俳優が6人。宮崎、森山、満島ひかり(26)、小池栄子(31)、松田龍平(28)、勝地涼(25)の面々が「カナリアたち」を務める。
ある事件で追われるように島を去った教師と、それぞれ心の中に重い物を抱えてきた6人の生徒との20年ぶりの再会。タイトルに「カナリア」とあるように、6人との合唱シーンが重要な場面として使われる。
「初めて6人でそろってのコーラスでは、指揮する私を真っすぐに見る視線だけで思わず泣きそうになった。本当にすてきでかわいい教え子たちに出会えて幸せ。こんなに感極まるような経験も初めて」。取材陣への第一声から吉永の目には涙があふれていた。
撮影の合間も頻繁に話しかけ、緊張させまいと気遣う吉永。宮崎が「私も泣きそうになった。ハグしてもらったり、温かい気持ちにさせてくれる方」と言えば、満島は「『こうやってると暖かいわよっ』と言ってシャドーボクシングされている姿がすごくかわいくて」。小池も「吉永さんとの芝居では、これまで感じたことのない感情がこみ上げてきた」と語るなど、仕事の大先輩としてだけでなく素顔の優しさにも触れ、“カナリア”たち全員がサユリスト化している。
映画「八甲田山」「劔岳 点の記」を撮影したベテランの木村氏ですら「想定外ばかり。圧倒的に今回が一番過酷だよ」と漏らした。伝説になりそうな撮影現場から、邦画史に残る作品を生み出そうとしている。
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